「身心一体学」寄付講座

  「細胞」の科学から「からだ」の科学、さらに「こころ」の科学まで


 知の爆発といわれる、現代科学の急速な成長が始まって100年。科学と技術の進歩の恩恵を受け、われわれは幸福な生活を享受している。ヒトの寿命は延びかつてない高齢長寿の喜びを存分に味わっているはずだが、実際われわれの前には、悲惨な現実が横たわっている。

 人類に幸福のために、身体負荷を軽減し、余力を各個々人の自己実現に当てられるように、様々な知識を活用してきた。しかし、智恵を絞って作った余暇を目の前に、幸せな余暇を楽しめる健康なからだを失ってはいまいか?

 私たちの「身体一体学」では、人間が人間であり続けるための知識を糾合し、人生最後まで人間らしく生き抜く知恵の体系化に挑みます。


講座の研究課題

 近現代の科学技術発達の過程において、分離されて扱われてきた人間の二つの側面、「身体」と「精神」を再び統合的にとらえ、全ての人々が"よき生活"を送るための知識基盤を構築します。

1. 動的細胞生命科学

 細胞の"Wellness"、より良い細胞はどのような状態にあるか、についての研究。
 細胞外環境との動的相互作用による細胞活性度に関する知識の深掘りと既知の知識群の構造化。

・現在未検証の分化細胞のダイナミック・インスタビリティの研究。
・細胞への物理的・機械的刺激と応答、活性化の研究
・活性化された細胞の環境への適応、エピジェネティックス研究

2. 動的人間生命科学

 人間のどのような行動が人間の細胞をより健康にするか、についての研究。
 ヒト・スケールの身体運動が細胞活性に影響を及ぼすプロセスの探求。意識的な活動で身体の至適状態を維持・向上させる知識群の構造化。

・人間の意識的行動による、マクロな全身の状態の変化の研究
・全身の運動が、細胞内外にどのような変化引き起こすかの研究

 以上の項目を、線維芽細胞、筋細胞、神経細胞、免疫細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞などを対象に、ヒトあるいは動物実験で検証する。

3. 身心一体学の構築

 どのような身体技法が身体を活性化させ、さらに精神的活性、つまりやる気や達成感を起こさせるかの研究。すなわち、精神の"Wellness"を達成するための実践的身体活用法の開発。

・東洋の身体技法の研究
・精神状態表現の科学的記述と身体の物質プロセスとの比較

 仏教の「行」や武道の「構え」などにおける精神集中の術のような、身のこなし・振る舞いの作法には、身体を通した精神コントロールの大事なきっかけが隠されている。fMRI、NIRSのような最新の脳科学の手法、モーション・アナリシスなどの最新の測定技術を用い、精神活動の物質プロセスへの反映をつぶさに観測することで、精神科学と物質科学との橋渡しを可能とする。

 また、身体運動、精神活動の内観的認識の表出である、言語の整理により、分断された「からだ」と「こころ」の統合的理解の基盤を構築し、さらに内観によって記述された状態の科学的・客観的記述との比較。



講座開設への応援メッセージ

日々成長し、老化しているからだの変化を的確に把握し、健全な状態をより長く保持するために、身体運動やスポーツを実践する的確な方法を探究することを目指した、本寄附講座の実現を心から応援します。この寄付講座によって、既存のフィットネス・クラブ、スポーツ・クラブ、さらに各自治体が管理する運動施設に対して、より適切な指針を与えるものと信じます。

健康スポーツ科学・放送大学教授・東京大学名誉教授 宮下充正


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東大は、人類の持続を目指す科学のハブたるべく、サステイナビリティ学国際連携研究機構を立ち上げました。基本コンセプトは、地球、社会、人間およびこれらの相互関係の再構築です。人間の根幹である「からだ」を先端科学する跡見教授を応援くださるよう、心よりお願いいたします。

東京大学総長 サステイナビティ学連携研究機構長  「知の構造化」提唱者 小宮山 宏

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現在の、科学をはじめとする我々の理論的研究では、Aと同時に起こっているBについて、2つの関係を認識するという、いわば二次元的働き以上のことを扱うことは出来ない。しかし、ナマ身の我々の身体は、同時並列的にいくつもの情報処理を行い、活動している。したがって、実際の我々の身体運動を把握する際、現状の理論的研究に限界があることは明らかである。例えば、現在腰を壊すことで問題となっている介護法を、私は武術の技を応用して、介護を行う側も、受ける側も、はるかに楽になる方法を案出し、今各方面から関心を持たれているが、現状の運動理論では、この介護法の解明が不可能なため、しばしば「科学的でない」との批判を浴びている。このような批判は、現在の科学が未熟なために起きていることは明らかで、本末転倒も甚だしい話なのだが、いつの間にか、科学は「自分に説明できないことは、その存在の意味がない」という驕りを持つようになってしまったようだ。このままでは、「本来未知のことを解明する」という"真の科学研究"が育つことが難しくなってしまうだろう。
そうした中、この寄付講座を企画されている跡見教授は、何とかこの現状から一歩を踏み出そうという強い意志を持たれているように感じられる。したがって私も、この活動に望みを託し、各方面の方々のご賛同を願っている。

武術研究者 甲野善紀

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悪化する地球環境問題を自分自身の生存の原点から捉える能力の育成に大きく貢献するこの寄付講座へのエコ環境志向企業の応援を期待します。

エコエフィシエンシーとエコデザインに関する特別研究会代表
東京大学 国際・産学共同研究センター教授 山本良一

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この寄付講座が、現在現代社会の陥穽となっている身の回りの科学――特に「健康なからだの可能性を引き出す新しい人間科学」の中核を担う寄付講座となるよう、是非とも心ある企業の応援を期待します。

内閣特別顧問 前日本学術会議会長 黒川 清

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私たちは効率的な産業を確立し、それによって人工物が充満した環境を作り出し、その中で一見安全な生活を営んでいます。しかし、私たち自身が作り出した人工環境と私たち人間との関係は必ずしも調和的ではありません。その整合化のためには、私たちの身体についてのより深い理解に基づく健康産業の創出が必要です。身体の科学を理解する先進的な企業の、本寄附講座への応援を期待します。

産業技術総合研究所理事長 吉川弘之

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生命科学研究は急進展してきてはいますが、往々にして、個々の分子の構造論に陥ってしまっているところがあります。勿論のことですが、生命は、単なる部品の寄せ集めでは理解不可能です。跡見教授は、この当然の疑問を学問の原点にすえて、幅広く研究を進めてこられた、有能稀才な研究者です。学問が、このような原点から発したものであるがゆえに、その成果は、生命科学や物理科学のみならず、“人間の本当の幸せとは何かを”社会に向けて発信するものとなっています。本寄付講座の一日も早い発足を願っております。“身体学研究”の文字通りのCenter of Excellence の誕生を期待して。

物理学 京都大学理学研究科教授 吉川研一

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「体」の科学の創成、大賛成です。私は、最近の中央教育審議会・初等中等教育分科会の「教育課程部会」において、戦後の日本の学校教育において、姿勢や歩き方の教育をしなくなったことが大きな問題ではないか、と発言したことがあります。でも、国語、算数、理科といった「教科」の学力問題に頭が一杯の委員たちに、この私の問題提起は全く理解してもらえませんでした。「立ち居、振る舞い」という美しい言葉も死語になりかけています。みずからの「からだ」のありようを見つめ、見直しができる。これこそが人間の「自立」の根源ではないでしょうか。「からだ」の科学は「品格」の科学だと思います。「品格」を作り出す科学の寄附講座設立に私も応援しています。

東京大学名誉教授・赤門運動会会長 石井紫郎